音楽

【のろしレコード】たなびく煙に誘われて聴いたレーベルの歌

先日、当ブログで紹介したばかりのシンガーソングライター『折坂悠太』

フォークを主体にしたそのオリジナリティあふれる楽曲からは、現代音楽シーンの中において異質な輝きを感じているし、印象的なメロディや情熱的な歌声を聴いていると「日本の曲っていいよな~」と、しみじみ思う。

そんな彼が同世代のミュージシャンと立ち上げたレーベルに『のろしレコード』なるものがある。

今回は、多くの人に聴いてほしい「のろしレコード」を紹介したい。

 

のろしレコードとは

折坂悠太、松井文、夜久一という同世代のシンガーソングライターが集って立ち上げたレーベル。

はじまりは2014年。

2015年にはそれぞれが持ち寄った楽曲や、共作によって完成させた音源集『のろし』をリリース。2019年10月には2枚目となるアルバム『OOPTH』を発表。

ハラナツコ(サックス)宮坂洋生(コントラバス)あだち麗三郎(ドラムス)らのメンバーと共に、フォークやブルースを基調にしながら、世界のルーツミュージックや「日本の心」を感じさせる素晴らしい作品を作り上げた。

 

そもそも個性豊かな3人が集ったきっかけは、松井文の呼びかけによるものだった。

 

余談だが、予備知識なしで松井文のアルバム『顔』を聴いたとき、正直に言って女性だとは思わなかった。そもそも松井文は「まつい あや」と読むわけだが、「まつい ぶん」と読んでしまったことから、完全に男だと思い込んでしまった節がある。

実際、知らずに聴けばはっきりどちらとは言えない、何とも中性的で魅力ある歌声の人だ。

詩の中でも「僕」「あいつ」といった男っぽい表現をするから、これまたややこしい。

そんな松井文が折坂悠太監修のもと2017年に発表した2ndアルバム『顔』も素晴らしい作品なので、ぜひチェックしてみてほしい。

 

のろしレコードに話を戻そう。

たとえばフォークやブルースと聞いて、今の若い世代の人はどういう印象を持つだろうか?

きっとそれは自分たちの親世代や、さらにもっと上の世代が聴いてきた音楽。すなわち “古い” とか “ダサい” とか、聴く前から敬遠してしまう人もいるのではないだろうか。

そしてもっと日本的に言い替えれば、演歌やグループサウンズ、歌謡曲といったワードに近い感覚があるかも知れない。

しかし、そんな風に感じてしまう人にこそ聴いてみてほしい音楽である。

日本らしい言葉と表現、心和むメロディから生まれる普遍的なミュージック。

のろしレコードは熱い。

 

のろしレコード 2ndアルバム『OOPTH』

2019年10月30日リリース。

のろしレコード名義で出しているとは言え、共作・共演といった印象は薄く、3人のシンガーソングライターそれぞれが新曲やセルフカバーを持ちより、一枚にまとめた作品になっている。

おのおのが素晴らしいミュージシャンなだけに、もっとがっつりと共演してもらいたい気持ちもあるが、アルバムを聴き終えた後には何とも言えない幸福感がある。

収録曲は以下のとおり

1. コールドスリープ(折坂悠太)
2. チャイナガール(夜久一)
3. さなぎ(松井文)
4. よるべ(折坂悠太)
5. OOPTH(インストゥルメンタル)
6. 深い河(夜久一)
7. 道 (折坂悠太)
8. ダイジョーブ (松井文)

 

もともとの音楽性が近いせいか、3人とも個性的な歌声の持ち主でありながら、不思議とバラついた感じがなくまとまっている。

オープニングを飾る『コールドスリープ』は初っ端から絶品な仕上がりで、コーラスワークやアンサンブルはこのアルバムのハイライトとも言える。

5曲目『OOPTH』は爪弾くギターの音色が心地よく、静かな夜に溶けこむインスト曲だ。

続く6曲目は夜久一による『深い河』。強いアタックでストロークを繰り返すギタープレイには、男らしい渋みと深みがにじみ出ている。今作中で一番ロックな印象を持つ楽曲。それにしてもこの歌声は渋い。

 

3曲だけちょっとしたレビューを書いてみたが、他の楽曲も味わい深いものばかり。

あと、忘れてはならないのが、先に紹介したゲストミュージシャンの存在か。

サックスやコントラバスを取り入れたバンドサウンドは、各曲の良さをよりいっそう高みへと引き上げている。

のろしレコードの作品は、バンドアンサンブルも魅力の一つ。とても素敵だ。

 

 

のろしレコードと、このレーベルを立ち上げた3人が鳴らす音。

これからの活動も注目していきたい。

 

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